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[フィジカルAIシリーズ#1]Jensen Huangが語る、AIの次なる波「フィジカルAI」とは?

Superb AI Japan
2026/02/03 | 10 min read
![[フィジカルAIシリーズ#1] フィジカルAIとは何か?](https://cdn.sanity.io/images/31qskqlc/production/9a438ebc32a65ab7cbcfed5f68882592fcf72479-2000x1125.png?fit=max&auto=format)

1. なぜ今、「フィジカルAI」なのか?
「AIの次なる開拓領域はフィジカルAIです。AIはいま、物理法則を理解し始めています。」 — Jensen Huang氏(NVIDIA CEO、CES 2025 基調講演)
AI革命を牽引するNVIDIAのCEO、Jensen Huang氏は断言しました。テキストや画像を生成する段階を超え、AIはいま、現実世界を理解し、相互作用し、物理的な仕事を遂行する「フィジカルAI(Physical AI)」の時代に入っています。
フィジカルAIは、単なる技術トレンドではありません。産業のパラダイムそのものを変えつつあります。グローバル調査会社Astute Analyticaの産業用ロボット市場レポートによれば、世界の産業用ロボット市場は、2024年の269億9,000万ドル(約4.03兆円)から、2033年には2,352億8,000万ドル(約35.16兆円)規模へ成長すると見込まれています。

この爆発的な成長は、フィジカルAIが製造、物流、医療といった伝統産業の長年の課題を解き始め、新たな価値を創出していることを示しています。本記事では、フィジカルAIの中核概念から最新技術動向、実際の産業ユースケース、そして成功導入に欠かせない最重要要素まで、必要な論点を総合的に深掘りします。
2. フィジカルAIとは何か?
定義:現実世界と相互作用するAI
フィジカルAI(Physical AI)とは、センサー(カメラ、LiDARなど)で物理環境を認識し、収集した情報に基づいて自律的に判断し、ロボットアームや車輪といったアクチュエータ(Actuator)を通じて現実世界に物理的な影響を与えるAIシステムの総称です。
ソフトウェアAIとの本質的な違い
ChatGPTのような従来のソフトウェアAIは、「瓶の中の脳(Brain in a Jar)」にたとえることができます。デジタルデータから学習し、テキストや画像として結果を生成しますが、現実世界に直接介入することはできません。
一方、フィジカルAIは「身体を持つ脳(Brain in a Body)」です。現実世界の複雑さや不確実性、刻々と変化する状況の中で相互作用しながら任務を遂行しなければなりません。たとえばドアを開けるには、取っ手の形状や材質を「見て」、どれだけの力で回すべきかを「判断」し、ロボットアームで実際に回して「行動」します。これがフィジカルAIです。
関連概念:Embodied AI、Robotic AIとの関係
- Embodied AI:直訳すると「身体を持つAI」で、フィジカルAIとほぼ同義で使われます。特に学術・研究領域では、環境との相互作用を通じて学習する側面を強調する際に用いられることが多い用語です。
- Robotic AI:AI技術を搭載したロボットのことを指し、フィジカルAIの代表的な実装形態です。フィジカルAIがより広い概念だとすれば、Robotic AIは、その概念がロボットというハードウェアに具体化された「成果物」に近い位置づけです。
3. フィジカルAIの歴史:サイバネティクスからAIファクトリーへ
「フィジカルAI」という用語自体は、近年、Jensen Huang氏のようなAIリーダーが、現在のAI技術水準をロボティクスと結び付けながら大衆化させたものです。
しかし、その根底にある発想——すなわち「身体を持ち、物理世界と相互作用し、その相互作用を通じて学ぶ知能」——は、AI研究の黎明期から存在していました。その進化は大きく4つの段階で捉えられます。
1. 初期(1940年代〜1960年代):サイバネティクスと最初の「行動する機械」
フィジカルAIの概念的な種は、1940年代に数学者Norbert Wienerが提唱した「サイバネティクス(Cybernetics)」に見いだせます。サイバネティクスは、生物と機械がフィードバックループ(Feedback Loop)を通じて自己制御し、環境と相互作用する仕組みを探究する学問です。これは、フィジカルAIの中核動作原理である「環境認識 → 行動 → 結果フィードバック」と正確に一致します。
このアイデアは1960年代に入り、具体的な形を取り始めます。
- 最初の産業用ロボット Unimate(1961):定められたプログラムを繰り返し実行し、GM(General Motors)の工場で人間の労働を置き換えました。知能はありませんでしたが、AIが将来「宿る」ための身体の登場を告げた存在でした。
- 最初のフィジカルAI Shakey(1966〜1972):Stanford Research Institute(SRI)で開発された「Shakey」は、フィジカルAIの真の原型と評されます。カメラとセンサーで周囲を「知覚(Perception)」し、自ら経路を見つけ障害物を避けて作業を遂行するように「推論(Reasoning)」し、車輪を動かして「行動(Action)」しました。これはAI研究史上、知覚・推論・行動を一つのシステムとして統合した最初の事例でした。

(Shakey、出典:SRI)
2. 哲学的転換(1980年代〜1990年代):「身体が思考をつくる」
1980年代、MITのRodney Brooks教授は当時の主流AI研究に異議を唱えました。複雑な記号や規則で世界を理解しようとする「抽象的知能」の研究(いわば「瓶の中の脳」)を批判し、「知能は身体を通じて現実世界と直接ぶつかることで立ち現れる」と主張したのです。
彼のNouvelle AI(ヌーベルAI)アプローチは、有名な論文『象はチェスをしない(Elephants Don’t Play Chess)』が示す通り、世界についての完全な内的モデルがなくても、単純な行動規則の相互作用が積み重なることで、複雑で知的な振る舞いが生まれ得ることを証明しました。これは「身体経験」が知能の必須条件であることを強く示し、今日のEmbodied AIやフィジカルAIを支える強固な哲学的基盤となりました。
3. 学習の進化(1990年代〜2010年代):強化学習とディープラーニング
フィジカルAIが自ら賢くなるためには、「学習」能力が不可欠です。この時期、試行錯誤を通じて報酬を最大化する行動を学ぶ「強化学習(Reinforcement Learning)」が大きく発展しました。
そして2012年、ディープラーニングがコンピュータビジョン領域でブレークスルーを起こし、フィジカルAIは強力な「目」を手に入れます。ロボットはようやく、物体を高精度に認識し、その意味を理解できるようになりました。学習能力(強化学習)と認識能力(ディープラーニング)の結合は、フィジカルAIが研究室を出て現実の課題解決へ踏み出すための土台を築いたのです。
4. 現在(2020年代〜):ファウンデーションモデルとの融合と「フィジカルAI」の大衆化
近年、生成AIを駆動するファウンデーションモデル(Foundation Models)の登場により、フィジカルAIは歴史的な転換点を迎えました。ファウンデーションモデルは、ロボットに「強力な脳」を提供し、人間の言語理解、常識的推論、複雑な任務の自律的な計画を可能にします。数十年にわたりそれぞれ発展してきたロボティクス、AI、コンピュータビジョン、強化学習が、いま一つの巨大な流れへと収束しつつあります。
Jensen Huang氏は昨年4月のHill & Valleyフォーラムで、この約10年のAIの進化を3段階に整理しました。
- 第1段階:認知AI(Perception AI):コンピュータビジョン(画像、音、振動、温度など)を通じて世界の情報を認識し、理解する段階(例:AlexNet、2012年前後)。自動運転が車線を認識したり、工場自動化が製品の不良を判別したりする技術の基盤。
- 第2段階:生成AI(Generative AI):情報の意味を理解し、別の形へ翻訳したり生成したりする段階(例:英仏翻訳、テキストから画像の生成)。
- 第3段階:推論AI(Reasoning AI):問題解決や新状況の理解のために推論能力を用いる段階。デジタルロボットである「エージェントAI」を生み出し、複雑な作業を遂行。
そしてHuang氏は、次の波が「フィジカルAI」だと語りました。物理法則、摩擦、慣性、因果関係などの物理的推論を理解するAIです。物理推論の応用には、ボールがどこへ転がるかを予測する、物体を傷つけずにつかむために必要な力の大きさを見積もる、車の死角の向こうに歩行者がいる可能性を推論する、といった例が挙げられます。こうした能力をロボットに適用すれば、ロボットは決められた命令だけに従う機械ではなく、予測不可能な現実世界で自ら判断し行動する知的な存在になります。これは、世界的な労働力不足という課題を解く重要な鍵でもあります。

つまりフィジカルAIは、ある日突然生まれた概念ではありません。半世紀を超える時間をかけ、数多くの先人たちの哲学と技術が幾重にも積み重なって到達した、AI進化の必然的な帰結だと言えます。
4. フィジカルAI時代に向けた第一歩
ここまで、フィジカルAIが何を意味し、半世紀を超える哲学と技術の積み重ねによって、いかに現在の姿へ至ったのか——その壮大な旅路を見てきました。
サイバネティクスという理論的な種から、Shakeyの歴史的な一歩、「身体の重要性」を説いたRodney Brooksの哲学的転換を経て、ファウンデーションモデルという強力な「脳」と出会い、ついにHuang氏が宣言した「AIの次なる波」へ。フィジカルAIは、いまや逆らえない時代の潮流になっています。
「フィジカルAIとは何か?」に答えたなら、次に残るのは、より重要でより面白い問いです。 「では、この技術は現実をどう変えるのか?」
次回の第2回では、フィジカルAIを実際に動かす中核技術(コンピュータビジョン、強化学習など)をさらに深掘りし、製造・物流・医療の現場を変革する具体的な産業事例と将来展望を詳しく取り上げます。
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