事例研究

【導入事例】地下駐車場のEV火災を早期に検知する:韓国・国立消防研究院と構築したAI監視システム

Superb AI Japan

2026/09/08 | 7 min read

【導入事例】地下駐車場のEV火災を早期に検知する:韓国・国立消防研究院と構築したAI監視システム

日本でも、集合住宅や商業施設の地下駐車場にEV充電設備が設置されるケースが増えています。東京消防庁の統計では、リチウムイオン電池を搭載した製品による火災は令和5年に167件と過去最多を記録し、10年間で約8.8倍に増えました。地下駐車場という閉鎖空間で、いかに早く発火の兆候を捉えるか——これは日本の防火の現場にも共通する課題です。

この記事の要点

  • 韓国・国立消防研究院(NFRI)とSuperb AIは、地下駐車場のEV火災を早期に検知するAIモデルを共同開発しました。研究は6か月単位のフェーズで進められ、2026年に第4フェーズ(最終)に入っています。
  • 火災・煙・車両の画像約10万枚を処理して専用データセットを構築。実火災のデータと制御された実験のデータを組み合わせ、希少なシナリオは生成AIによる合成データで補完しました。
  • 既存システムとの比較で、誤報を80%削減し、火災の検知時間を65%短縮。2025年11月には実際の地下駐車場で実証実験を行い、2026年8月には実大の火災再現試験を完了しています。

概要:EVの普及とともに現れた、新しい安全課題

EV市場の拡大とともに、新たな安全課題が浮上しています。韓国を例に取ると、EVの登録台数は2025年5月時点で75万台を超えました。一方、韓国消防庁の統計では2024年までにEV火災が238件報告され、95億ウォン(約690万米ドル)の物的被害が生じています(韓国国会予算政策処『NABO FOCUS』第125号、2025年11月)。

このうち49.2%——およそ半数——が、走行中ではなく停車中・駐車中・充電中に発生していました。EVが集中する地下駐車場の脆弱性が、あらためて浮き彫りになった数字です。韓国政府は2025年2月、地下駐車場のEVを対象とした総合的な火災安全対策を打ち出しています。

韓国消防庁の傘下にある国家研究機関、国立消防研究院(NFRI)は、研究と技術開発を通じて防火の課題に取り組んでいます。NFRIはSuperb AIと協業し、EVの火災と煙を検知するAIモデルの開発を進めてきました。研究は6か月単位のフェーズで構成され、2026年時点で第4フェーズ(最終)が進行中です。本稿では、その歩みを振り返ります。

課題:人の目では遅すぎ、従来システムでは精度が足りない

NFRIが直面したのは、EV火災に固有の課題でした。

第一に、熱暴走は早期に検知することが難しい

リチウムイオン電池の熱暴走は、従来の火災とは異なる進行をたどります。煙感知器を含む既存の火災検知システムでは、熱暴走の初期段階に発生するかすかな煙を捉えきれないことがあります。同時に、誤報が生じれば不要な避難や対応コストを招きます。

第二に、地下という環境が被害を増幅させる

EV火災は近隣の車両へ急速に燃え広がる可能性があり、再発火のリスクがあるため消火も困難です。加えて地下駐車場は進入経路が限られており、消防車や消防隊員が現場に到達しづらい構造です。検知が遅れるほど結果が重くなるため、最初の数分で煙を捉えることが決定的に重要になります。

解決策:専用データセットからリアルタイム監視まで

1. EV火災に特化したデータセットの構築

Superb AIは、火災・煙・車両の画像約10万枚を処理し、専用の学習データセットを構築しました。実際の火災事案のデータと、制御された実験で撮影したデータを組み合わせ、希少なシナリオについては生成AIで作成した合成データで補完しています。データセットの開発では、Superb Platform(スーパーブ プラットフォーム)のScatter View(スキャッタービュー)を用いて火災・煙データの分布とパターンを確認し、全体のデータ品質を管理しました。

EV火災に特化したデータセットの構築

EV火災に特化したデータセットの構築

2. リアルタイム処理に対応した検知モデルの開発

このデータセットで複数のモデルを学習・比較し、リアルタイム処理の要件を満たしながら精度と速度のバランスが最も優れたモデルを選定しました。狙いはバッテリー熱暴走の初期段階に生じるかすかな煙を捉えることにあるため、検証では目に見える炎だけでなく、とくに煙の検知性能に重点を置いています。

リアルタイム処理に対応した検知モデルの開発

リアルタイム処理に対応した検知モデルの開発

3. エッジベースのリアルタイム監視システムの構築

完成したモデルは、エッジデバイス上で動作するリアルタイム監視システムとして実装されました。クラウドサーバーを経由せず現地で映像を解析するため、既存の防犯カメラ(CCTV)インフラと統合できます。検知イベントは画面上の警告と警報音で即座に伝えられます。

2025年11月には、実際の地下駐車場で実証実験を実施しました。制御された試験環境だけでなく、現実の条件下で煙の検知性能を検証することが目的です。

エッジベースのリアルタイム監視システムの構築

エッジベースのリアルタイム監視システムの構築

成果:誤報80%削減、検知時間65%短縮

EV火災検知モデルの性能は、測定可能な結果として示されました。

  • 検知時間を65%短縮。火災の検知に要する時間が、既存システムと比較して65%短縮されました。とくにバッテリー熱暴走の初期兆候をとらえる場面で高い性能を示しています。
  • 誤報を80%削減。誤報の削減により、不要な避難と対応コストを最小限に抑えられます。
  • 現場での検証。2025年11月、実際の地下駐車場での実証実験を通じて、現実の条件下で煙の検知性能を再確認しました。

主要な成果(数値まとめ)

現在:最終フェーズで「導入できるシステム」に仕上げる

2026年時点で、NFRIとSuperb AIの協業は第4フェーズ、すなわち最終フェーズに入っています。前半のフェーズが検知精度の向上に重点を置いていたのに対し、最終フェーズの焦点は、この技術を実環境に導入できるシステムへと仕上げることにあります。

低コストのエッジデバイス向けにモデルを最適化

高性能なハードウェアを必要とせず、小型のエッジデバイス上でリアルタイムに動作するようモデルを最適化しています。すべての地下駐車場に高価なサーバーを設置せずに導入できる状態を目指しています。

Webベースの監視システムを開発

エッジデバイス上でローカルのWebサーバーが動作し、同一ネットワーク上のPCからアクセスできるWebベースの監視システムを開発しました。外部サーバーに依存せず独立して稼働します。火災・煙の検知イベントは画面上の警告と警報音の両方で通知され、イベントログは後から確認できるよう記録されます。

実大試験(Full Size Test)の火災再現試験を完了

2026年8月、実際の火災条件を再現した実大試験を完了しました。地下駐車場の環境内で煙を発生させ、現実に近い条件下でシステムの検知性能を検証しています。

このシステムの決定的な差は、学習に用いたデータにあります。オンラインで入手できる一般的な火災データを主に学習したシステムは、カメラの近くで目立って現れる煙を認識する傾向があります。これに対し、本研究で開発したモデルは、地下駐車場という環境と、EVの下から発生するかすかな煙に特化しており、カメラからより離れた位置の煙も検知することを目標としています。

研究の完了後は、最大検知距離や必要検知時間といった定量的な試験基準の確立を計画しています。これは、EV火災検知システムの今後の性能標準を定める材料になり得るものです。

地下駐車場とリチウムイオン電池火災

日本でも、リチウムイオン電池に起因する火災は増加傾向にあります。東京消防庁の集計では、リチウムイオン電池を搭載した製品による火災件数は平成26年の19件から令和5年には167件へと増加し、過去最多を記録しました。EV自体の普及も進んでおり、新車販売に占めるEV・PHEVの比率は2026年7月時点で4.26%となっています(日本自動車販売協会連合会・全国軽自動車協会連合会の統計をもとに集計)。

急速充電設備の火災予防についても検討が進んでいます。東京消防庁は、出力50kWを超える急速充電設備の火災予防対策に関する検討部会を設け、その検討結果を公表しています。地下駐車場のような閉鎖空間に充電設備を置く場合、発火の兆候をいかに早く把握するかが、避難と初期消火の成否を左右します。

本事例のアプローチは、既存の防犯カメラ(CCTV)インフラにエッジデバイスを追加する構成であるため、大規模な改修を伴わずに検討できます。日本の施設でも、既設の監視カメラを活かした早期検知の選択肢として応用の余地があります。

まとめ

本事例は、AIが防火研究をデータ構築から実環境への導入まで前進させ得ることを示しています。現場固有の課題は専用データセットと合成データで解決し、モデルはエッジでリアルタイムに動作し、性能は実際の地下駐車場での実地試験で検証されました。プロジェクトはいま、最終段階——技術を現場に導入できるシステムへと磨き上げる段階——に入っています。

Superb AIは、産業のためのVision Intelligence(ビジョンインテリジェンス)を進化させ、より安全な現実環境づくりに貢献していきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. このプロジェクトはどのような成果を上げましたか?

EV火災検知モデルは、既存システムと比較して誤報率を80%削減し、平均検知時間を65%短縮しました。

Q2. モデルの開発にはどのようなデータを使いましたか?

火災・煙・車両の画像約10万枚を処理して学習データセットを構築しました。希少なシナリオについては、生成AIで作成した合成データで補完しています。

Q3. 既存の火災検知システムとはどこが違いますか?

一般的な火災データを主に学習したシステムとは異なり、このモデルはEVバッテリーの熱暴走と地下駐車場の環境に特化しています。熱暴走の初期段階に生じるかすかな煙を検知することを狙って設計されています。

Q4. 現在はどのような研究が進んでいますか?

プロジェクトは最終フェーズに入り、低コストのエッジデバイスを用いた地下駐車場でのEV火災のリアルタイム検知に取り組んでいます。Webベースの監視と警報音による通知を備えた、導入可能なシステムの完成を進めるとともに、今後の試験・導入に向けた定量的な性能基準の策定にも取り組んでいます。

Q5. 自社の施設に導入できますか?

本システムは既存の防犯カメラ(CCTV)インフラにエッジデバイスを追加する設計のため、大規模な工事やインフラの変更を伴わずに導入を検討できます。現場条件に合わせた構成については、お問い合わせフォームからご相談ください。

Superb AIは、産業現場のビジュアルデータを、企業が実際に活用できる知能へと変換するVision Intelligence企業です。本事例で紹介した成果は、Superb AIが主導した実プロジェクトを通じて得られたものです。


Superb AIについて

Superb AIは、エンタープライズ向けのAIトレーニングデータプラットフォームであり、ML(機械学習)チームが組織内でトレーニングデータをより効果的に管理・提供できるよう、データ管理の新しいアプローチを提案しています。2018年に発表されたSuperb AI Suiteは、自動化、コラボレーション、プラグアンドプレイモジュールのユニークな組み合わせを提供し、多くのチームが高品質なトレーニングデータセットを準備する時間を大幅に短縮する手助けをしています。この変革を体験したい方は、今すぐ無料でご登録ください。